アリスズc

成長


 セルディオウルブ卿の屋敷のある町は、活気あふれる商業地だった。

 沢山の店が立ち並び、子どもたちもかごを片手に物売りをしている。

「髪油はいりませんか?」

 少女に声をかけられ、ハレは足を止めた。

 彼女は、とても複雑で美しい髪の編み方をしていた。

「ありがとう、ふたつもらおう…綺麗な髪だね。自分で編んだのかい?」

「160ダムです…髪は、母さんです。母さんは、この町で一番の髪結い師なんです」

 しゃべりながらも、てきぱきとお金を受け取り、お釣りを暗算して返し商品を渡した。

「学校は、行ってないのかい?」

「習熟場に行ってます。習熟場は、五時からです」

 この町では、寺子屋を習熟場というらしい。

 しかし、ハレが引っかかったのは、その言葉にではない。

「五時? 五時では、帰る頃には真っ暗だろう」

 夜に出歩くことを嫌うこの国の人間には、遅すぎる時間に思えたのだ。

「昼間は、仕事をしないといけません。でも、習熟場に通えば、大人になったらもっといい仕事につけますから」

 少女は、不自然なほどよそゆきの言葉を使う。

 まだまだ子供の年であるにも関わらず、丁寧なしゃべり方を習得しようとしているのだ。

 昼間は親の手伝いをし、夕方から勉強をし、そして彼女たちにとって怖い夜にも耐えて帰る。

「髪結い師には…ならないのかい?」

 母の話をする時に、『町で一番の』と言ったのだ。

 自分の母のことを、きっと誇らしく思っているはずで。

 すると。

 少女は、すねたような表情を浮かべ、口ごもった。

「計算とかは好きなんですけど…私…不器用なんです」

 聞いては、いけないことだったようだ。

「そう…では計算を頑張るといい。きっと将来の役に立つ」

 ハレは、少しきまりが悪くなりながら、受け取った油瓶をモモとコーに1つずつ渡した。

「コーにくれるの?」

 ぱっと、白い髪の女性が目を輝かせる。

「桃、後で編み直して、この子みたいに」

「え、いや…さすがにそれは無理かな」

 器用そうなモモであったとしても、この少女の髪の編み込みは──難しいようだった。
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