アリスズc

「まだ、帰ってきませんね」

 晩餐の直前になっても、買出しの二人が戻らないことに、ホックスは心配げだ。

 それを告げに来たリリューもそこにいるのだが、余り心配しているように見えなかった。

 剣術の使い手の従妹を、信用しているのだろう。

 それに、コーもいる。

 あの二人に危害を加えるのは、いまや難しいことだろう。

 そういう意味で、ハレも余り心配する気にはなれなかった。

 だが。

 不自然な遅さであることもまた、間違いない。

「リリュールーセンタスはどう思う?」

 落ち着かないホックスより、落ち着き払っている無口な彼の方が、いまは冷静な答えが返せそうだ。

「…コーの歌で、どこかで歓待でも受けて帰れないのではないでしょうか」

 なかなか面白い話だ。

「そうだね…彼女たちは、夜を嫌っていないし、人あたりもいい。私もそう心配はいらないように思えるよ」

「しかし…」

 ホックスは、まだ心配そうで反論したげだったが、ため息と共に唇を閉じた。

 よいことだ。

 どれほど強い二人であろうとも、彼女たちが女性であるから、尚のこと彼は心配をしているのだろう。

 傷つけたくない。

 失いたくない。

 だからこそ、人は心配するのだから。

「晩餐が終わっても帰ってこないようなら…リリュールーセンタスに探しに行ってもらおう」

 了承の肯きで、彼は応えた。

「何もないならないで…こんなに遅くなるのは非常識だと、きつく言ってください」

 ホックスのため息に、ハレは微笑んだ。

「ここの町の子たちは、いまの時間も外で勉強しているんだ…夜でもきっとだいじょう…」

 安心させようと言い掛けた言葉に。

 ハレとホックスとリリューが、一瞬だけ視線を集めたのだった。
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