アリスズc

「申し訳…ありません」

 リリューに連れられて、ハレの部屋に来た二人の女性は──いきなり正座して頭を下げた。

 彼は、苦笑しながらその神妙な二人を見つめる。

 ホックスの視線は、安心したせいか尚更怒っていて、自分にきつい説教をするよう訴えてくる。

「何をしてたんだい?」

 とりあえず理由を聞こう。

 ハレの問いかけに、モモがぱっと顔を上げた。

「習熟場へ行ってました!」

 真剣な目、だった。

 剣を持つ時以外は、わりと穏やかな彼女の瞳の奥に、熱意が見える。

「コーが行こうって行ったの」

 正座に慣れないコーが、足をもじもじさせながらも桃をかばおうとする。

「いいえ、私が行きたいと思いました!」

 なのに、即座にモモは否定した。

 仲のいいことだ。

 微笑もうとしたら、ホックスと視線があって。

 ハレは、咳払いで笑みをごまかさなければならなかった。

「習熟場は、どうだった?」

 だが、どうしても彼の興味はそこに向く。

 寺子屋の実際の姿。

 モモの目が、輝く。

「素晴らしかったです…でも」

 モモの瞳が、翳る。

「でも…一部のもっと勉強したい人たちには…足りていませんでした」

 ああ。

 彼女の言葉は、ハレの心をかきたてた。

 彼は──本を読んでいた。

 分厚い、ウメの贈ってくれた本を、時間を見つけて必死で繰っている。

 専門分野の育成。

 国、民間の援助体制。

 知識の、集結。

 ウメの知識と、自分の知識が混じりあい、頭の中で絵を描こうとする。

 ひとつの、とても大きな絵。

 余りに大きいものだから。

「…分かった」

 それを描くのに一生懸命で。

 二人の女性に対して、怒る暇もなかった。
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