アリスズc

 盗まれた種の話は、商人から異国へと飛び。

 そして、あの事件へと飛んだ。

 飛躍しすぎかもしれない。

 だが、一笑してしまうには、種が盗まれたことが矛盾してしまうのだ。

 確かに、東の群島の人間に売買を持ちかけることは可能だろう。

 しかし、向こうは耕地面積が少なく、魚介類、自生する芋・果物で生活をしているはずだ。

 そんなところに、広々とした畑のいる穀物を植えようと思うのか。

 だが、『あの国』ならば、それがありえるかもしれない。

 いまだ、誰も解読できない文字でしたためられた書簡が、ひとつだけ王宮にはある。

 そう、解読出来ないのだ。

 その国の人間が、いないのだから。

 国の名前さえ、分かることはない。

 東の群島よりも、遠く遠くからきた人間。

 追うことなど、出来ない。

 何故ならば、この国の船の能力では、群島までさえもたどりつけるかどうか分からない程度なのだ。

 この国は、海洋国家ではない。

 大陸国家ゆえに、必要のないものの成長や発展は停滞する。

 他国が遠すぎる、ということもまた、その発展を阻害するのだ。

 だが。

 その遠い遠いところから、船がたどりついた。

 見たこともない、巨大な船だったという。

 その船を作りうる技術、航海術を持つ国が、この国をただ荒らしに来ただけだというのか?

 二十年。

 父は、沿岸の警備を固めるべく兵を配置し、沿岸を警戒する船を増やした。

 それが、間違っていたとは思わない。

 あの時代には、それが当然の仕事だっただろう。

 だが、何故だ。

 ヤイクの想像の話と、父のとった行動には、大きなな隔たりがある気がした。

 敵がただの蛮族ではなく、全てを計算し尽くした狡猾な国だとしたら。

 だとしたらこの二十年──あの国は、一体何をしていかというのか。
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