アリスズc

「鳥と話しているの?」

 エンチェルクは、木の上のコーに向かって語りかけた。

 彼女の上の方の枝に、珍しい大きな鳥が止まっている。

 美しくたくさんの色の羽と、長い長い尾の鳥だ。

 都では見かけない、綺麗な鳥。

 梅が、どうもコーではなくて、本当に鳥がいるようだと言ったので、エンチェルクは見にきたのだ。

 木は、多くの葉がついているおかげで、ぱっと見には分からないが、真下から見上げると確認が出来る。

「そうです。この鳥は、森で人に追いかけられて逃げてきました。慌てて逃げてしまったので、人の多い都に来てしまって困っています」

 コーもまた、困っているようだった。

 本当に、鳥と話が出来るかのような内容だったが、もはや驚きはしない。

 彼女は、魔法が使えるのだから。

 トーは、歌以外のそれを周囲に見せることはまったくない。

 だが、まだ成長途中の彼女は、どれを隠せばいいのか分からないのだろう。

 危険だわ。

 エンチェルクは、彼女を心配するのをやめられそうにない。

 特異な能力を見せれば見せるほど、テルの好奇を惹く気がしてならないのだ。

 テルは、この国をよりよくするためには、手段は選ばないだろう。

 少なくとも、使える人間の能力は、全て引き出して使う性質だ。

 エンチェルクには、彼女のことを報告しない自由はあるが、一度気づかれたら彼女を守る自由は少ない。

「太陽妃様に相談しましょうか?」

 だから。

 コーには、庇護がいる。

 テルが、うかつに手を出せないようにするために、一番有効なのはそこではないかと思った。

「太陽妃様?」

 きょとんと、コーは首を傾げた。

「ええ、ハレイルーシュリクス殿下のお母上です。あの御方なら、その鳥のことも守れるはずです」

 ぱっと。

 彼女の表情が、明るくなった。

「ああ、景子のことですね。そうですね、景子に聞いてみましょう」

 エンチェルクの表情は、少し重たくなる。

 言葉は、とにかく丁寧になったのだが──人の名前だけは、いまだにこの有様だった。
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