アリスズc

 太陽妃の森。

 そこに、エンチェルクは初めて足を踏み入れた。

 彼女は、宮殿の裏庭に、自分の森を持っていたのだ。

 その横には、温室がある。

「昔ね、このまんなかに太陽の実を植えたのよ。名前の割に、日差しを嫌う木のようで…でも、残念ながら根づかなかったわ」

 本当に、太陽妃は残念そうに語った。

 そのために森を作ったのか、とエンチェルクは納得した。

 そして。

 この宮殿の中の森を、あの鳥の住まいにしていいというのだ。

 鳥に連れ添ってきたコーが、空を見上げると──円を描くように飛んでいた美しい鳥は、そこで納得したのか舞い降りてきた。

「ここなら、誰もその鳥を追うことはないわ。ただ、時折人が見つめていくかもしれないけれども、それは許してね」

「大丈夫です、景子。鳥は、少しですが都で人に慣れました。梅やエンチェルクイーヌルトがいても、逃げませんから」

 あたたかい日差しのように、太陽妃とコーが微笑み合う。

「太陽妃様…」

 そんな彼女に、エンチェルクは声をかけた。

 お願いがあったのだ。

「コーの、後見人になっていただけませんでしょうか?」

 その言葉に、コーはきょとんとし、太陽妃は首を傾げた。

「コーは、権力者が欲しがる特異な力を持っています。そして、彼女は見ての通り、純真です。私は、コーに人を嫌いになって欲しくないのです」

 人は、人を騙す。

 人は、人を利用する。

 そんな精神的な駆け引きに、彼女が巻き込まれたならば。

 人を嫌って、それこそコーが森にひきこもってしまうかもしれない。

 少なくとも、テルにはその素質があった。

「私に、後見人はいりませんよ」

 なのに。

 コー自身に、否定される。

「梅は、私に言いました。『山本の名のつく皆が、あなたの友達ですよ』と。良い友達がいるので、後見人はいりません」

 エンチェルクが、ぽかんとしていると。

 太陽妃が、吹き出した。

「やだ…梅さん声真似…そっくり」

 まだ──その癖は、治っていないようだった。

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