アリスズc
∞
「へぇ…モモ、ね」
一歩、カラディは近づいてきた。
桃は、下がらなかった。
強さを隠さなくなったこの男に、負けてはならないと思ったのだ。
自分とは違う強さ。
それが、いま、目の前で壁のようにそそり立っている。
逃げたり、よけたりしたくない。
「何で、今更教えてくれるんだ?」
堂々と、彼女の心を探る目。
まったく隠そうとしない、赤裸々な不信感だ。
「私は、ここに長く滞在しています。もうしばらく、お邪魔することになるでしょう。町の方とも親しくしていますから、そう遠からずあなたの耳に私の本当の名も入るでしょう」
心の表面など、探られたところでどうということはない。
だが、そこから奥には入らせない。
桃は、目の前に格子を立てた。
中は見えるし、手も入るだろう。
しかし、それ以上先には入れない距離を、言葉で作り上げたのだ。
「だから、どうした?」
格子にかかる手。
「たとえ、本当の名がバレたところで、何が困る? ただ俺に、変な疑いをかけられるだけだろう?」
顔を、寄せられる。
「それとも何か?」
息がかかる。
「お前は、俺に疑われたくなかったのか?」
桃は。
刀を鞘ごと引き抜き、その柄頭でカラディの顎を突き上げた。
「…っ!」
舌を噛んだかもしれない、声にならない悲鳴。
「だってあなた…そんな風に、細かいところまでしつこいじゃないですか」
そのまま、腰に戻す。
口を手で押さえ、カラディは目を白黒させている。
しゃべれないなら好都合だった。
「じゃあ」
彼を、簡単に置き去りにして、屋敷に入ることが出来るのだから。
「へぇ…モモ、ね」
一歩、カラディは近づいてきた。
桃は、下がらなかった。
強さを隠さなくなったこの男に、負けてはならないと思ったのだ。
自分とは違う強さ。
それが、いま、目の前で壁のようにそそり立っている。
逃げたり、よけたりしたくない。
「何で、今更教えてくれるんだ?」
堂々と、彼女の心を探る目。
まったく隠そうとしない、赤裸々な不信感だ。
「私は、ここに長く滞在しています。もうしばらく、お邪魔することになるでしょう。町の方とも親しくしていますから、そう遠からずあなたの耳に私の本当の名も入るでしょう」
心の表面など、探られたところでどうということはない。
だが、そこから奥には入らせない。
桃は、目の前に格子を立てた。
中は見えるし、手も入るだろう。
しかし、それ以上先には入れない距離を、言葉で作り上げたのだ。
「だから、どうした?」
格子にかかる手。
「たとえ、本当の名がバレたところで、何が困る? ただ俺に、変な疑いをかけられるだけだろう?」
顔を、寄せられる。
「それとも何か?」
息がかかる。
「お前は、俺に疑われたくなかったのか?」
桃は。
刀を鞘ごと引き抜き、その柄頭でカラディの顎を突き上げた。
「…っ!」
舌を噛んだかもしれない、声にならない悲鳴。
「だってあなた…そんな風に、細かいところまでしつこいじゃないですか」
そのまま、腰に戻す。
口を手で押さえ、カラディは目を白黒させている。
しゃべれないなら好都合だった。
「じゃあ」
彼を、簡単に置き去りにして、屋敷に入ることが出来るのだから。