アリスズc

「話は…分かった」

 長い沈黙の後──父はそう言った。

 部屋には、三人きり。

 この国の太陽である父と、弟のテル。

 そして、ここではさしたる役にはたたないハレ。

「テルがオリフレアリックシズと結婚し、この国の世継ぎとなる…それで本当に、ハレイルーシュリクス…いいのだな?」

 兄弟で決めたことに異論を挟むというよりは、ハレに最終確認をするのみ。

「はい、異存ありません」

 ここでの自分の役目など、この言葉を言うだけだ。

 しかし、父には困った笑みを浮かべられてしまう。

「太陽の椅子には、興味はありません、と聞こえるぞ」

 そのとおりです、とはさすがに言葉には出来なかった。

「では、祭りの主事をテルタリウスミシータが。副事を、ハレイルーシュリクスがつとめるといい。それで、周囲は全て分かるだろう」

 ハレは、これからテルの下につくということ。

 弟の方を見ると、彼もまた自分の方を見た。

「オリフレアリックシズも、祭りに参加する資格があるが…いまは、あまり無理をさせない方がよいようだな」

「はい」

 父の言葉に、はっきりと答えるテル。

 彼女は旅を成功させた。

 その事実は、間違いない。

 髪を伸ばす権利を得た今、無理に儀式に参列させ、身体が損なわれては元も子もないだろう。

 次期太陽の、子を宿している。

 その免罪符があれば、少々のことなど揺るぎはしないのだ。

「さて、この祭りはこれまでにないものになるだろう。三人、ほぼ同時の旅の成功と、オリフレアリックシズの懐妊」

 まったくもって、イデアメリトスの権勢にかげりがないように見える。

「父上…もうひとつお話が」

 だが、そうではない。

 テルが、身を乗り出す。

 既に、ヤイクは旅立った。

 祭りの重要な儀式に、参加出来る立場の彼を、テルは手元から離したのだ。

 弟は、既にこの国の平和の維持のために、動き始めている。

 そして、ハレは。

 弟の築く平和の上に、新しいものを築きたいと考えていた。
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