アリスズc

 オリフレアは、宮殿の東翼の一室に住まわせるよう手配をした。

 本来、外からの客は西翼なのだが、既に未来を約束されている彼女は特別だった。

 テルが、その部屋を見舞うと。

 母が、来ていた。

 いい香りがすると思ったら、どこから引っ張ってきたのか、鮮やかな色の植物が部屋に飾られている。

 母らしい気遣いだ。

「さっきまで、コーも来ていたのよ」

 すっかりあの白い娘は、母のお気に入りになり、宮殿への出入りも自由になっているようだ。

「うんと、優しくしてあげなさい」

 そう言って、母は気を利かせたのか、出て行ってしまった。

「………」

 テルは、ベッドの端に腰かけた。

「欲しいものはあるか?」

 横になっていることの多い日々では、退屈この上ないだろう。

「シャンデルデルバータを、早く戻して。ここの従者は、みな気が利かないわ」

 赤ん坊の頃からの従者と、比較するのは酷というものだ。

「療養中だ。それに…完治しても、おそらく左手はまともに動かせまい」

 テルは、このまま彼女を退かせるつもりだった。

 家と十分な慰労金と、そしてその左手を補える側仕えが、シャンデルには必要なのだ。

「それが何だっていうの? あの左手のことは、誰にも馬鹿にさせたりしないわ…この子が、絶対にそうさせない」

 まだふくらんでもいないおなかを、オリフレアはなでた。

 テルの中にはまだ実感としてないが、彼女には母としての変化が生まれつつあるように見える。

 この子のためにも、一番信頼できる側仕えが必要なのだと。

「分かった。完治したら、宮殿に上がるように言おう。他には、何も欲しいものはないのか?」

 了承し、テルが別の望みを聞くと。

 オリフレアが、じっとこちらを見た。

 ああ。

 彼女の、欲しいものが分かった。

「オリフレアリックシズ…愛している」

「もう少し、優しく微笑みながら言って」

 無茶にも、ほどがあった。
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