アリスズc

 奇妙な、二人だった。

 ヤイクとエンチェルクだ。

 それぞれ、リリューと話はするのだが、お互い直接話をしようとはしない。

 長い期間、一緒に旅をしていただろうに、これでよくうまくいったものだ。

 だが、互いに対する嫌悪感のようなものを、感じることはなかった。

「私が行くところのひとつに、君の従姉と母が滞在しているんだったね」

 現在の港町の状況を、まるで彼に勉強させるように、ヤイクはひとつずつ話をする。

 まつりごととは無縁なリリューには、馬の耳に念仏のようなものだ。

 それでも、ロジアという女性の話は、さすがに覚えてしまった。

 この国に仇なした、異国の関係者ではないかと、ヤイクが睨んでいる人間だ。

 しかし、母がそこに滞在している時点で、害のある人間だとはリリューには思えない。

 子を産み、動けないという身柄を預けているのならば、なおさらだ。

「その君の身内に、私の対面の橋渡しを頼む」

 ヤイクの言葉は、筋が通っているようで、実は全然通っていなかった。

 確かに、リリューの第一目的は、母と新しい家族に出会うことだ。

 そして、故郷をもう一度この目で見ること。

 だが、自分は細かい話には向いていない。

 それくらい、この男には分かっているだろうに。

 わざわざリリューに頼まなくても、いるではないか。

 彼女らと親交があり、言葉に長けた女性が。

 エンチェルクを、見た。

 まつりごとにも明るい彼女なら、すんなり話は通るだろう。

「私が…やりましょうか?」

 彼女は。

 リリューに言った。

 その仕事を頼まれた自分から、引き受けようかと申し出ているのだ。

 おそらく、エンチェルクはこの仕事をやりたいのだろう。

「………」

 ヤイクは、答えない。

 彼女の言葉は、本当にリリューに向けられたものだと思っているのか。

「…では、お願いします」

 彼は、エンチェルクに託した。

 仕事をもらえて、彼女は少し微笑んだ気がする。

 難しい人たちだ。

 この二人の関係を、リリューが理解するには、相当な時間が必要なように思えたのだった。
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