アリスズc

「話って…何ですの?」

 ロジアは、あの応接室へ桃を通した。

 彼女の、この町の子供たちへの愛と、そして寂しさの詰まった部屋。

「もうじき、私の従兄…菊伯母さまの息子が、この町に来ます」

 ひとつ、桃は小石を挟んだ。

 言葉を自然にかわしていくための、大事な足場。

「ああ…この町の生まれという子ですわね」

 伯母が、何かの折に話したのだろう。

 血のつながらない子供を育てている。

 伯母のその経緯は、ロジアの心を揺らす風にでもなったのだろうか。

「そうです。その従兄ですが…」

 置いた石を踏んで。

「都の貴族を一人…連れてくる予定です」

 次の石を置く。

 緩やかに緩やかに。

 桃は、自分の心を静めながら、早口にならないように気をつけた。

 言葉で、ロジアの横っつらをひっぱたきたいわけではないのだ。

「貴族?」

 彼女は、考えているようだった。

 どういう立場の貴族なのか、と。

 荘園だけで暮らしている道楽貴族もいれば、役人に学者に肩書はとにかく幅広いのだ。

「まつりごとに携わる方です」

 その中のひとつが──政治家。

 母の知人で、テルの右腕。

 おそらく、将来は賢者になる男だ。

「こんな港町に…一体何の御用がおありになるのかしら?」

 桃の瞳を、覗き込む目。

 真意を、見抜こうとするかのように。

「二十年前の…真実を知りたがってらっしゃるようです」

 この言葉の意味を、ロジアは深読みするだろうか。

 そんな。

 桃の若い考えなど。

「あの悲しい日の出来事を、いまさら掘り返して…どうなさろうというのかしらね」

 美しい衣装の裾で、軽く払われるだけだった。

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