アリスズc

 伯母の部屋に戻ると。

 リクが、次郎を抱いていた。

 あの男が、少し困ったように小さな身体を、ぎこちなく抱いている。

 珍しい光景だった。

「ああ、戻ったか。ロジアはどうだった?」

 伯母は、窓辺に立っていた。

 ちょうど。

 庭が一望できるところ。

 ロジアがハチに絡んでいたのも、桃がそんな彼女と共に屋敷に戻ったのも、きっと見ていたのだろう。

「隙間を見て来ました」

 桃の出来ることは、やった。

 毒と引き換えに、見えたものもあったのだ。

 彼女の祖国との隙間。

 その隙間が、想像よりも遥かに大きいことが分かった。

 ロジアは、本当の意味でこの国の国民になっていないが、自分の祖国は憎んでさえいる。

「夕日様が…」

 リクは、抱いた次郎を見つめながら、ひとつ言葉を紡いだ。

「夕日様が、こうおっしゃってました。『あの女は、暇にするな。誰かに必要とされ、忙しければ忙しいほど良い仕事をする』と」

 ひと呼吸おいて。

「逆に、『暇にした途端、誰かを巻き添えにして死ぬか、国をひっくり返すほどの悪事を企み出す』とも」

 強烈な、善と悪の裏表。

 歪んだ心を、かろうじて善に維持しているのは、この町の人たちの彼女への愛。

 同じような強烈な力を、カラディにも見た。

 持て余すほどの力を、彼らは持っている。

 それを決壊させずに、この国のために使ってもらえるならば、とてつもない推進力を生み出せるに違いないのに。

 もやもや、する。

 希望を形に導くことが出来ない、自分の未熟な能力に。

 桃は、もどかしい気持ちでいっぱいになるのだった。
< 377 / 580 >

この作品をシェア

pagetop