アリスズc

「前に話したでしょう?」

 二人の男が去り、テテラはたった今までいた彼らを、心の中に思い起こすようにそう言葉を紡ぎ出した。

「カラディは、国中を飛び回っていて、年に一度くらい会いに来てくれるの」

 学者のお手伝いをしているそうよ。

 彼女に育てられた子供たち。

 本当の自分の子供のように、テテラには嬉しさと誇らしさが混じっていた。

「イーザスも調査のお仕事だったかしらね…子供の頃から、私の心配ばかりをしていたのがまだ抜けないみたいで。怖いと誤解されることもあるけど、とても優しい子よ」

 それは、あなたにだけ優しいんですよ。

 桃は、心の中の言葉を、あらぬ方を見ながらごくんと飲み込んだ。

 カラディとは、質の違う怖さ。

 何のコーティングもない、むき出しの敵意。

 その敵意は。

「テテラフーイースルに近づくな」

 桃を見逃しは、しなかった。

 孤児院からの帰り道。

 目の前に、イーザスが立ちふさがる。

 カラディと別れた後に、ここで張っていたのだろうか。

 だが、その言葉は。

 どこか滑稽に感じた。

 この男は、桃が何者かを知っていて、そんなことを言っているのではない。

 うさんくさい人間を、彼女の側に近づけたくないだけ。

 祖国からの命令が最優先だろうに、彼はテテラにこだわっている。

 それも、やむを得ないだろう。

 放り出された時、彼らはまだ子供だったのだ。

 伯母は、ロジアは何かの訓練を受けた人間だと言った。

 おそらく、子供にはつらい日々だったに違いない。

 そんな彼らは、テテラに出会った。

 ひどい怪我を負いながらも彼らを守り、言葉を教えた姉や母のような人間。

 愛を覚えても、おかしくなどない。

「そんなに彼女を守りたいなら…そばにいてあげたらどうでしょう」

 桃は、ひどいことを言った。

 ただ、本心でもあった。

 彼らを縛る異国の鎖を、どうにか引きちぎりたいと思ったのだ。

 だが、

 結果的に──猛獣の尾を踏んでしまった。

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