アリスズc

 一発目を、桃は何とか避けた。

 突然、イーザスが素早い拳を繰り出してきたのだ。

 脅しではない。

 本気で。

 本気で!?

 ここは、町中だ。

 人通りが、そう多くないところとは言え、それでもすぐ向こうから人が歩いてくる。

 そんなところで、彼は容赦ない一発目を繰り出した。

 普通の女性であったなら、一瞬でふた目と見られない顔にされていただろう。

 よけられて、イーザスの目の色が変わる。

「さっさと倒れろ」

 ドス黒い気を、まきちらしながら彼は足を踏み出した──と思いきや、その足を軸にもう片足を振り出した。

 とびのく。

 直情すぎる。

 桃は、背筋に冷や汗を感じた。

 年齢の割に、後先考えなさすぎるのだ。

 彼らの様子を目撃した人が、走って逃げて行った。

 兵士を呼ばれるのも、時間の問題だろう。

 それまで、自分が無事でいられるかどうか。

 すぅっと息をひとつついて、桃は刀を抜いた。

 手の中で、反回転させる。

 こんな町の中で、人の身を真っ二つにする訳にはいかない。

 それに。

 この男が死ねば。

 テテラが、悲しむと思った。

 政治的な意味での生死については、自分が考えるところではない。

 いまこの場で、自分が信じる行動を取る。

 踏み込んで来る。

 峰を振り出す。

「イーザス!」

 誰かが呼んだ。

「モモ!」

 誰かが呼んだ。

「………!」

 桃の振り出した峰を、イーザスはおそれなかった。

 簡単に左腕で、それを受け止めたのだ。

 馬鹿のやること。

 刃だったなら既に腕はない。

 峰であっても、鉄のこん棒で殴られるようなものなのだ。

 骨が無事で済むはずもない。

 この男は、あっさり左腕を捨て──右の拳を打ち出した。

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