アリスズc

 覚悟って痛い。

 桃は、腹部に激しい衝撃を受け、気がついたら吹っ飛ばされていた。

 昔から、伯母の覚悟は必ず痛いものだった。

 痛みを、恐れることが良くないのではない。

 恐れるせいで、痛みを避けるようになることが良くないのだ。

 そんな彼女の教えを思い出しながら、桃は空を見た。

 この瞬間の、覚悟の度合いで言えば、自分は負けたのだ。

 そして。

 空を見ながら、背中から道に落ちた。

「イーザス!」

 追撃を止める、男の声。

「モモ!」

 自分に駆け寄る女の声。

 ああ。

 空を遮るように、人の顔が現れた。

「久しぶり…エンチェルク」

 激しい痛みを感じる腹部と背中をそのままに、桃はつい笑ってしまった。

「そんな悠長な事態じゃないでしょう!?」

 やっぱり怒られた。

 痛みで、うまく苦笑も出来ないまま、桃は助け起こされる。

 そして、ようやく状況を見た。

 イーザスをおさえつけているカラディと。

 その二人に、微動だにせず対峙している──リリュー。

 遠巻きに、面倒くさそうな目で見ているヤイク。

 ついに、彼らが港町に入ったのだ。

「リリュー兄さん、大丈夫だから…」

 最後まで手放さなかった刀を、何とか鞘に戻しながら、彼を制する。

「揃いも揃ってニホントウか」

 イーザスは、吐き捨てるように言った。

「やめとけ、イーザス…テテラを呼んでくるぞ」

 そんな野獣を、カラディは苦悶の表情で止めるのだ。

 テテラの名前が効いたのか、不承不承、男は拳を下ろした。

「エンチェルク…彼らよ」

 桃は、まだうまく息が出来ないまま、小さくそう彼女に言った。

 そう言えば──分かってくれるはずだった。
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