アリスズc

「あっはっはっは…拳でよかったな」

 事の次第を聞き、伯母は楽しそうに笑う。

 まったくその通りなので、桃としては恥ずかしくて小さくなるしかなかった。

 幸い、痛みは大分ひいてきていて、大事には至らないようだ。

 そんな伯母の部屋──ロジアの屋敷の一室で、リリューがベッドに横たわる次郎とにらみ合っていた。

 いや、睨んでいるわけではないのだろう。

 けれど、次郎はまだ余りに小さい赤ん坊で、それに対して従兄はどうしたらいいのか、分からずにいるのだ。

「睨んでないで、抱いたらどうだ?」

 伯母が屈託ない言葉で、息子の尻を叩く。

 リリューは、大きな大きな自分の両手をじっと見た後、小さな小さな弟を見る。

 そして。

 頭を左右に振るのだ。

「もう少し…大きくなってからにします」

 うっかり握りつぶしてしまうとでも、心配しているのだろうか。

 大きな身体で、強い力を持つ男が、赤ん坊に戸惑っている姿は、とてもおかしいものに見えた。

「馬鹿なことを…いいから抱いとけ。小さい次郎を覚えておいてやれ」

 首は据わってるから大丈夫だ。

 伯母の言葉に背中をつつかれ、おそるおそるリリューが手を伸ばす。

 兄弟かあ、いいなあ。

 ぎこちないながらに、何とか赤ん坊を抱き上げる従兄を見ながら、ふっと桃はそう思った。

「結構…重いな」

 赤ん坊の命の重さをかみ締めるように、リリューは弟を抱く。

 桃にも。

 弟がいる。

 向こうはまだ、認めてくれてはいないようだが、あの父親の子という意味では、二人は姉弟なのだ。

 一緒に暮らせなくても、何かでつながる姉弟でいたいなと、目の前の兄弟を見ながら、桃は思った。

「この国に来た時、家族と呼べるのは梅だけだった…増えるものだな」

 伯母が、目を細めてリリュー、次郎、そして桃を見る。

 嬉しそうだった。
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