アリスズc

 笑い声が、響いた。

 ロジアのものではない。

 男の、そして、何かを破裂させるような強い笑い方。

 無精ひげの──カラディ。

「ロジアが、ここまで完膚なきまでにやられるのを見るのは初めてだぜ」

 ぐいと、男はこちらを見た。

「なあ、貴族の兄さん。あんたが容赦ない人だってのは、よくわかった」

 強い眼光。

「だが、ロジアは、もう十分罰は受けてる。少なくとも、俺たちよりはよっぽど痛い目にあってる…それで見逃せっていうワケじゃあないが、話し合いの余地くらい、用意する度量は見せてくれよ」

 嫌な、感触の言葉。

 わずか一握りの、異国の勢力。

 自分たちを追い詰めると、この国にとって不幸な事が起きるぞ。

 そう匂わせている気がした。

「では、まず認めることからだ」

 ヤイクが、その気配に気づいていないわけではない。

 だが、脅しに揺らぐ様子もない。

「『俺たちは、異国から来た人間だ』ということについては、答えられない」

 塀の外周を三周くらい走ってくるような、回りくどい答えが返って来た。

 だが、それはほとんど答えているも同然で。

 ヤイクは、これまで彼らが何であるか、具体的に言葉にはしていない。

 何もない状態で、彼らは具体的な言葉をあえて濁した。

 すなわち、『そういうこと』なのだ。

 これで譲歩しろ。

 そう、この男は告げている。

「カラディ…」

 仲間のひねくれた軽い口を、ロジアは閉ざそうとしたのだろうか。

 それにしては、言葉が弱い。

 ヤイクにえぐられた傷の痛みが、おさまっていないのかもしれない。

「ロジア…頭のいい奴は、取引をしたがる…モモを相手にするよりはマシだ」

 すさまじい皮肉を、貴族の前で炸裂させながら、カラディは仲間に告げる。

 モモ。

 出てきた言葉に、納得してしまう。

 どんな力も、真正面に受けて踏ん張ろうとする人間は、ずたずたにされても立ち続ける。

 異国の人間にも、まっすぐな人間は、見分けられるのか。
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