アリスズc

「そう、私は頭がいい」

 ヤイクは、カラディの皮肉を、更に強く打ち返した。

「そんな私が最初に言えるのは…対等な話し合いが出来ると思わない方がいい、ということだな」

 この政治家は、二人をまったく信用していない態度を強硬に見せている。

 半分ほどは、演技なのだろうと、エンチェルクは思った。

 まずは、自分に有利な土俵へ相手を引き込むための駆け引き。

 ヤイクは、本来柔軟すぎる貴族だ。

 肩書も性別も、制度上は必要だと思っているが、深いところではこだわっていない気がする。

 その相手が、今度は外国人になった。

 彼らの情報を、本当は欲しくてたまらない。

 だが、そんなものをちらつかせては、相手に足元を見られる。

 一番最初のケンカで、相手の鼻っ柱をへし折ろうと考えているのか。

「俺たちを脅すと…生きてこの町を出られないぞ」

 しかし、カラディは今度は堂々と脅しを口にした。

 びりびりとした空気が、エンチェルクの緊張感を駆り立てる。

 それは、痛いほどだ。

「やってみるがいい」

 彼女から見えるヤイクの背中が、一回り大きくなった気がした。

 カラディの右手が、ぴくりと動いた直後。

 ロジアは、その手を制した。

「この町に、争いの種を持ち込むのはやめてちょうだい」

 哀願ではない。

 命令口調だった。

「この男に何かあったら、都の兵が出てきてよ。ここをもう一度、火の海にしたいの?」

 彼女の言葉と扇を、カラディは手で押し戻す。

「悪いがロジア。俺はお前ほど、この町を大事にしてない」

 睨みあう二人。

 力関係に、上下は見受けられない。

 それどころか。

 自分は自分、人は人という、見事な個人主義の匂いが、そこにあった。

 それに、祖国に対しての忠義が、一切見えてこない。

 そんな二人を見て。

 ヤイクが、クッと笑った。

 毒にたっぷりとまみれた笑みだ。

「お前たちは…本当は何がしたいんだ?」

 この男は──弱い部分を見逃さない。
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