アリスズc

「よぉ、モモ」

 ノッカーを鳴らして、即座に扉を開けるとは、随分な無作法だ。

 そんなことをやってのけるのは──カラディくらいだろう。

 ソファによりかかり、イーザスからの一発の療養中だった桃は、はぁとため息をついた。

 本当にしつこい、と。

「驚かないところを見ると…やっぱり知ってたんだな」

 ここは、ロジアの屋敷。

 彼が、我が物顔で堂々と歩いているということは、すなわちそういうことなのだ。

「何の用ですか?」

 桃は答えず、別の疑問で返した。

 ここは、伯母の部屋でもある。

 リリューは出かけていないが、伯母と次郎はすぐ近くにいて、この無作法者を見ているのだ。

「男が女のところに来る理由なんざ、ひとつだろ? 一緒にメシでも行かないか?」

 二人の間には、明確な線が引かれているというのに、この男は何を言い出すのか。

「生憎、誰かさんの友人に殴られたおなかが痛いので、何も食べられそうにありません」

 桃は、あらぬ方を見ながら、皮肉を持ち出す。

 とりつくしまなど、与える気もない。

 なのに。

「そのメシとやらは…私でも構わないか?」

 よりにもよって、伯母が絡んできた。

 え、ちょっ!

「伯母さま、次郎はどうするんですか!?」

 慌てて桃は、彼女を引きとめようとした。

 こんな問題児と一緒に食事なんて、何を仕込まれるか分かったものではない。

「連れてけばいいだろ?」

 あっさりと。

 何の問題もないとばかりに、伯母は言い放つ。

 品のよい食堂に行くのではない。

 酔っ払い渦巻く酒場に連れて行かれるに違いないのに、そんなところに次郎を連れていくなんて!

 だから。

 つい。

 反射的に。

「お、伯母様が行くくらいなら、私が行きます!」

 そう答えてしまっていた。
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