アリスズc
∞
暗くなった町の辻で。
リリューは、モモとはち合わせた。
従妹は、複雑な表情を隠せないまま、自分の前で足を止める。
「ずぶ濡れよ、リリュー兄さん」
しかし、複雑な気分よりも、彼の異様な様子の方が気にかかったのだろう。
水をしたたらせていることへの言及がきた。
「困ったことでも、あったか?」
モモの浮かない顔の方が気になったので、リリューは答えるよりも問いかけていた。
「困ったこと…うん、そうかもしれない」
モモは、素直だ。
信用した人間には、心を開いておくことを、何ら厭わない。
そうある方が、彼女にとっては楽なのだろう。
リリューは、次の言葉を待った。
だが。
モモの唇は、重くなったように開かない。
何滴も何滴も、彼のしずくが地面に落ちていく間、彼女は黙りこくって。
そして。
「よく、分からなくなってきたの。私には…私の価値観しかないから」
ついに、金属のように重い言葉を吐いた。
従妹は、違う価値観を目の当たりにしてきたのだろうか。
違う価値観なら、旅の間だって出会って来た。
月の人間たちなど、その最たるものだろう。
だが、その時にモモは、こんな状態にはならなかった。
「そうか…」
答えながら、リリューは本能的に彼女の言わんとしていることに気づいた。
誰の価値観かは、分からない。
分からないが。
「モモは…その人の価値観を、理解したいと思ったんだな」
言葉に。
モモは、ばっと顔を上げる。
反論しようとしたように見えた。
その唇は、何度も空を切り。
結局。
「よく、分からない…」
反論は、なかった。
暗くなった町の辻で。
リリューは、モモとはち合わせた。
従妹は、複雑な表情を隠せないまま、自分の前で足を止める。
「ずぶ濡れよ、リリュー兄さん」
しかし、複雑な気分よりも、彼の異様な様子の方が気にかかったのだろう。
水をしたたらせていることへの言及がきた。
「困ったことでも、あったか?」
モモの浮かない顔の方が気になったので、リリューは答えるよりも問いかけていた。
「困ったこと…うん、そうかもしれない」
モモは、素直だ。
信用した人間には、心を開いておくことを、何ら厭わない。
そうある方が、彼女にとっては楽なのだろう。
リリューは、次の言葉を待った。
だが。
モモの唇は、重くなったように開かない。
何滴も何滴も、彼のしずくが地面に落ちていく間、彼女は黙りこくって。
そして。
「よく、分からなくなってきたの。私には…私の価値観しかないから」
ついに、金属のように重い言葉を吐いた。
従妹は、違う価値観を目の当たりにしてきたのだろうか。
違う価値観なら、旅の間だって出会って来た。
月の人間たちなど、その最たるものだろう。
だが、その時にモモは、こんな状態にはならなかった。
「そうか…」
答えながら、リリューは本能的に彼女の言わんとしていることに気づいた。
誰の価値観かは、分からない。
分からないが。
「モモは…その人の価値観を、理解したいと思ったんだな」
言葉に。
モモは、ばっと顔を上げる。
反論しようとしたように見えた。
その唇は、何度も空を切り。
結局。
「よく、分からない…」
反論は、なかった。