アリスズc

炎の死者


 都の祭は。

 建国以来、最大の規模で開催されることとなった。

 三人のイデアメリトスの旅の成功。

 そして、オリフレアの懐妊。

 全てのめでたい情報は、飛脚に乗って国を駆け廻っていったのだ。

 都には既に、入りきれないほどの他の町の民衆がなだれ込んでいるという。

 ハレの補佐に、ホックスがつく。

 その覚えめでたい晴れがましい役目を、彼の母は卒倒せんばかりに喜び、そしてハレが儀式の副次であることを聞いて、がっくりと肩を落としたという。

 要するに、息子は賢者になれないと知ったのだ。

「いいんですよ。私は政治より学問が好きですから」

 本人は、母親がようやく諦めてくれた事実の方が嬉しいという。

「でも、殿下の側仕えとして放り込んでくれたことは、感謝しています」

 旅から帰って来たホックスは、ハレが呼ばない限りは、学問に打ちこむ日々で。

 ただ時折、宮殿に顔を出しているなと思ったら、母の温室にいたりする。

 気がつくとジリアンと議論になっていると、母が笑っていた。

 テルの補佐は、本来であればヤイクだ。

 彼ならば、肩書も素晴らしいし、儀式もそつなくこなしただろう。

 だからこそ、弟は彼を港町へ出した。

 代わりに補佐をするのは、ビッテ。

「俺には、武の補佐の方が相応しいだろう?」

 テルは、そううそぶく。

 彼が目指しているのは、父のようなではなく、祖父のような太陽。

 あたたかいのではなく熱く、そして強い時代を作ろうとしている。

 そんな男の補佐が、武官であるというのは、そのよい証明になるのだ。

 そう言われて、ビッテはとても誇らしげに見えた。

 ヤイクの代わりではなく、お前は自分に相応しい男だと言われて嬉しくないはずがない。

 ビッテの忠誠の全てが、テルに注がれている。

 父に対して、武の賢者がそうしているように。

 そしてテルは。

「父上の賢者は、まだまだ死なないのが揃ってるからな。時々、後継者代理を頼むことになる、よろしく頼む」

 ハレに、こう言った。

 後継者代理を、彼に頼むと。

 この男は。

 今後とも、宮殿を飛び出す気でいるというか。
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