アリスズc

「おはようございます!」

 遅れて駆け込んできた子供に、皆がおはようと口々に応える。

 小さな身体。

 それと対照的な長い髪。

 左の目元に二つ並ぶほくろが、印象的だった。

 子供は、一礼して自分の木剣を取りに行く。

 リリューは、何年も変わらぬその姿を見てきた。

 本当であれば、モモよりも年上のはず。

 10歳ほどで止まった姿に、騙されてはいけない。

 彼は、ただの子供ではないのだ。

 太刀筋は、粗いが強く。

 その身が成長すれば、どれほど素晴らしい剣士になることだろう。

 ここにいる皆が、その日を願っていた。

 名を──テルという。

 成人までの間、彼は好きな習い事が出来た。

 宮殿の外に出る、ということについては、いろいろ問題があったようだが。

「おはよう、テル」

「また、大きくなったんじゃないか?」

 近づいてくるモモを、テルは少し嫌そうに見る。

「そう、また伸びたみたい…お父さんに似たのかなあ」

 何故か、自分の身長を計るのに、リリューの身体を使う。

 確かに、また伸びているようだ。

「モモの父親って…誰だ?」

「ヒミツ~」

 怪訝に問うテルに、彼女がにこっと笑う。

 子供の頃。

 よく、リリューはモモの面倒を見た。

『ととさまに会いたい』と泣く彼女を、彼はだっこしてあやしたものだ。

 そんなモモに、彼は本当の父と母の記憶を、おぼろげに話したことがあった。

 小さい手に、リリューは撫でられた。

 自分より年下の子に、慰められてしまったのだ。

 それ以来。

 モモは、父親を恋しがって泣かなくなった。

「テル…あの事、考えといてね。私、絶対役に立つから」

「………」

 だが。

 何もかもあきらめたワケでは、なさそうだ。

 よからぬモモのお願いに、テルはぷいっと無言で立ち去ってしまった。
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