アリスズc

 日が──暮れる。

 ハレは、編み直した髪を自分の首に幾重にも巻きつけた。

 そして、部屋を出る。

 そこに待っているのは、三人の男女。

「いい天気で、良かったですね」

 荷物はやたら大きいものの、一切の武装を放棄しているホックス。

 その声は、せいぜい隣の領土くらいへ行くようなものだった。

 呑気と言う意味ではない。

 本の上でしか、この国の領土の広さを知らないからだ。

 おそらくこの面子の中では、一番旅に苦労をする人間になるだろう。

「いつでも、出られます」

 ハレですら分かる、素晴らしい日本刀。

 その刀を、堂々と腰にはく男の背は高く、肌の色は見慣れたものとは少し違う。

 灰色がかった褐色。

『海の生まれなので』

 それが、この男──リリューの言った言葉。

 あの武の賢者と、テルの通う剣術道場の女主人の養い子。

 旅に必要な大きな荷物を、事もなげに背負う頼もしい男だ。

 そして。

「………」

 声は出さないものの、初めての旅に緊張を隠せないでいる娘が一人。

 あのウメの一人娘──モモ。

 腰には、まだ新しい日本刀を下げた彼女の背も、女性にしては高い。

 その表情は、まだ若々しく頼もしさはないが、それでも遥かに自分よりも腕っぷしは立つ。

 出立までの日々は忙しく、ウメと話をしたいというハレの希望はかなわなかったが、長い旅路でその娘から話を聞くことも多いだろう。

 ハレにとってこの旅は、知るための旅となる。

 太陽と月と。

 学問とまつりごとと。

 各領主と民衆と。

 肌で知りたいことは、彼には星の数ほどあった。

「行こう…」

 そのために──ハレはこの三人を選んだのだ。
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