アリスズc
∠
祭に花を添えたのは──風に乗る、美しい歌声だった。
テルは、宮殿に流れゆくその音に耳を傾ける。
男の声と、女の声。
父の祭りの時は、ひとつだけだったという声は、ふたつになっていた。
喜びや祝福を歌う音は、都中に響き渡っているように思える。
事実。
歌は、宮殿の外からも聞こえてくる。
庶民たちが、彼らの歌を覚え、そして自ら歌おうとしているのだ。
トーが、これまで歌ってきた功績だろう。
彼らは、自らを流浪の人間のように扱うが、人の心をひきよせる光がある。
二人が本気になれば、イデアメリトスの地位を簒奪することも可能なように思えた。
だが、彼らは鳥であろうとした。
鳥は、玉座など欲しがらない。
人から見上げられ、憧れられることはあっても、彼らは己の性として飛んでいるにすぎない。
彼らの良心に期待するという関係には、危険は多い。
だから、祖父は公認の楽士として彼の名を広め、月の一族の的にしたのだ。
生きていれば的として役に立つし、死んでも何も困らないと。
それは、彼が一人だったから。
今は、二人になった。
危ういな。
兄は、まだいい。
だが、ハレとの間に子が産まれたら、更に次の世代が生まれたら。
テルとハレの間の固い兄弟の血は、いつか通じなくなるかもしれないのだ。
400年ものこの国の存続を、更に次の400年につなげるために、テルは太陽になるからこそ、考えなければならなかった。
鳥は、鳥かごに入れるか。
あるいは──
祭に花を添えたのは──風に乗る、美しい歌声だった。
テルは、宮殿に流れゆくその音に耳を傾ける。
男の声と、女の声。
父の祭りの時は、ひとつだけだったという声は、ふたつになっていた。
喜びや祝福を歌う音は、都中に響き渡っているように思える。
事実。
歌は、宮殿の外からも聞こえてくる。
庶民たちが、彼らの歌を覚え、そして自ら歌おうとしているのだ。
トーが、これまで歌ってきた功績だろう。
彼らは、自らを流浪の人間のように扱うが、人の心をひきよせる光がある。
二人が本気になれば、イデアメリトスの地位を簒奪することも可能なように思えた。
だが、彼らは鳥であろうとした。
鳥は、玉座など欲しがらない。
人から見上げられ、憧れられることはあっても、彼らは己の性として飛んでいるにすぎない。
彼らの良心に期待するという関係には、危険は多い。
だから、祖父は公認の楽士として彼の名を広め、月の一族の的にしたのだ。
生きていれば的として役に立つし、死んでも何も困らないと。
それは、彼が一人だったから。
今は、二人になった。
危ういな。
兄は、まだいい。
だが、ハレとの間に子が産まれたら、更に次の世代が生まれたら。
テルとハレの間の固い兄弟の血は、いつか通じなくなるかもしれないのだ。
400年ものこの国の存続を、更に次の400年につなげるために、テルは太陽になるからこそ、考えなければならなかった。
鳥は、鳥かごに入れるか。
あるいは──