アリスズc

 祭に花を添えたのは──風に乗る、美しい歌声だった。

 テルは、宮殿に流れゆくその音に耳を傾ける。

 男の声と、女の声。

 父の祭りの時は、ひとつだけだったという声は、ふたつになっていた。

 喜びや祝福を歌う音は、都中に響き渡っているように思える。

 事実。

 歌は、宮殿の外からも聞こえてくる。

 庶民たちが、彼らの歌を覚え、そして自ら歌おうとしているのだ。

 トーが、これまで歌ってきた功績だろう。

 彼らは、自らを流浪の人間のように扱うが、人の心をひきよせる光がある。

 二人が本気になれば、イデアメリトスの地位を簒奪することも可能なように思えた。

 だが、彼らは鳥であろうとした。

 鳥は、玉座など欲しがらない。

 人から見上げられ、憧れられることはあっても、彼らは己の性として飛んでいるにすぎない。

 彼らの良心に期待するという関係には、危険は多い。

 だから、祖父は公認の楽士として彼の名を広め、月の一族の的にしたのだ。

 生きていれば的として役に立つし、死んでも何も困らないと。

 それは、彼が一人だったから。

 今は、二人になった。

 危ういな。

 兄は、まだいい。

 だが、ハレとの間に子が産まれたら、更に次の世代が生まれたら。

 テルとハレの間の固い兄弟の血は、いつか通じなくなるかもしれないのだ。

 400年ものこの国の存続を、更に次の400年につなげるために、テルは太陽になるからこそ、考えなければならなかった。

 鳥は、鳥かごに入れるか。

 あるいは──

< 400 / 580 >

この作品をシェア

pagetop