アリスズc

「時間を稼いでいるようにしか見えんな」

 ヤイクは、そうカラディに突きつけた。

 話し合いという名の言葉の殴り合いが始まって、はや三日。

 既に、ロジアは同席しているだけで、言葉を挟むこともやめてしまった。

「ああ、そうだ。時間稼ぎをしてるのさ…早く逃げた方がいいんじゃないか?」

 まるで仲間を呼んでいるのだと、言わんばかり。

 この屋敷の異物である、自分たちを抹殺するために。

 モモの推測では、6人以上がこの国にいる。

 彼らは、そのうちのまだ3人しか見たことがないのだ。

「さあて…本当に助けは来るのか?」

 ヤイクは、無精ひげの男を見下す目を向けた。

「どう見ても、お前は全員を動かせる男には見えないがな」

 容赦ない言葉にも、カラディは堪えているようには見えなかった。

「あのな…俺たち全員とまとめて交渉にしているつもりなら…大間違いだ。総意を、俺は話してるんじゃない。勘違いするな」

 相当の個人主義者たちの、集まりなのだろう。

 そんなことは、考えるだけでもうんざりだと言わんばかりだ。

「だが、言っとくぜ。誰かは既にこの屋敷でいま、何が起きているか気づいてる」

 エンチェルクは、違和感を覚えた。

 回りくどい表現だが、何故そんなことをわざわざ言葉にするのか。

「ああ…」

 ヤイクは、嫌そうに視線を軽く天井へと向けた。

 そして、応接室のソファから立ち上がった。

「そういう思考は、太陽の下では出ないだろうな」

 彼は、今日の話はこれで終わりだと言わんばかりに、捨て台詞を残して出てゆく。

 エンチェルクは、ゆっくり考えたい気持ちを脇に押しやり、後に続く。

 ヤイクは──自室には、向かわなかった。

 向かったのは。

 キクとモモの部屋。

 ノッカーを鳴らす。

 赤ん坊の意味不明な声があがった後、「どうぞ」とキクが答えた。

 モモもいる。

「近日中に、ここに襲撃が来る。覚悟をしておいてくれ」

 それが。

 ヤイクの出した答え。
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