アリスズc

「襲撃って…それが分かってるのに、ここにいるんですか?」

 モモは、大きな矛盾の塊を、目の前に出す。

「両賭けした、博徒がいたんだよ」

 ヤイクは、キクをちらりと見た。

 彼女が、赤子を抱えているからだろう。

 この中で、一番弱く小さな存在。

 襲撃というものが、エンチェルクの想像通りのものであったとするならば、ジロウとキクが一番危ないのではないか。

「両賭け?」

 賭博とは無縁のモモは、よく分からないように復唱する。

「両賭けしたって、賭けた人間は決して勝てない…だが、大負けもしない。ここの二人は、大負けをしない方向を選んだ」

 ヤイクの言葉を要約すると。

「二人以外の人間と、私たちをぶつけて、生き残った方と交渉する、と言うことね」

 エンチェルクは、口に出して整理することで、ようやく頭の中でつながった。

 そんなことを仕掛けては、どちらとも関係が少し悪化するだろう。

 だが、敵側にしてみれば、数少ない同国人。

 こちら側にしてみれば、異国の情報源。

 自分に利用価値があると知っているから、「せいぜい俺を奪い合って戦ってくれ」と思っているのか。

 生き延びるために、これほどの策を使うのか。

「ロジアは…何か言ったか?」

 キクが。

 ふと、言葉を挟んだ。

 エンチェルクが、いいえと答えると。

「そうか、では、ロジアも納得してるのだろう」

 彼女は、微笑んだ。

 カラディとロジアは、意見が一致して手を組んだということか。

「贅沢を言えば」

 ヤイクは、キクとモモをそれぞれ交互に見た後。

 こう言った。

「襲撃の時に、全てを完璧にこなしたい」

 全てを?

 完璧に?

 襲撃を撃退するだけではなく、もっと協力しろ──そう言っているようにしか聞こえなかった。
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