アリスズc

 カラディが──部屋に来た。

 桃は、少し呆れながら彼を通す。

 伯母もいるので、妙なことをしないだろう。

「ひどい博打をしかけたのね」

 既にヤイクから話は聞いていると、桃は最初の一言を切り出す。

 そんな彼女を、カラディは複雑な笑いで返した。

「言っただろ? より強い者が、獣の神に近いんだぜ」

 天秤の両側に、同国人とモモたちを乗せ、ゆらゆらとゆらめかせる。

「お前より…強い人間が来るということだな」

 伯母は。

 ご機嫌な次郎をあやしながら、穏やかな言葉でカラディを裂いた。

「お前のような自由を好きな男が、そいつを排除できないということは、お前より強いのだろう」

 ああ。

 そういうことなのか。

 桃には、読みきれていないところだった。

 この男やロジアが、祖国の鎖を外せないのは──彼らにとって恐るべき誰かがいるから。

「俺は、戦う専門家じゃない」

 裏を返せば、戦う専門家が、来ると言っているのだ。

 だが。

 わざわざ、そんな話をこの男は、しに来たのだろうか。

 じっと、桃はカラディを見た。

 その視線を、無精ひげの男は嫌そうに払う。

「ああ、分かった分かった。ロジアが、俺に頼むから仕方なく来た」

 彼は、桃ではなく、伯母の方を見た。

「どこかに赤ん坊を預けて来て欲しい、だそうだ」

 何で俺が。

 伝令役は、カラディには不満でしょうがないようだ。

 ああ。

 ロジアは、子供に対して強い思い入れがある。

 万が一にも巻き込まれることがないよう、彼女は願ったのだ。

「ああ、そうだな…では、預けることにしよう」

 余りにあっさりと。

 伯母は、我が子を手放すことを決めた。
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