アリスズc

 リリューは、一番最後にその話を聞いた。

 彼は、奇妙な立場であったために、一人だけ違う部屋を借りていたからだ。

 ヤイクの護衛ではあったが、それは主な仕事ではなく。

 母や従妹と同室になるのも、性別の壁で憚られたためだ。

 説明は、モモにしてもらったが、随分と込み入った内容だった。

 ヤイクの望む完璧な仕事とは、二つのことを同じ時にこなさなければならない。

 しかも、相当強引なことだ。

 一つは、襲撃を確実に打ち果たすこと。

 敵側の核となる人間を倒すことが出来れば、個人主義の彼らは祖国を捨て、この国に散り散りになることが出来るという。

 だが、それだけではヤイクは満足しない。

 散り散りに全員逃がしては、駄目なのだ。

「自由になれば…カラディは姿を消すと思われているわ」

 モモは、ヤイクの懸念を伝える。

 そうだろう。

 祖国に忠誠がないように、彼らにはこの国にも深い思いはないのだ。

 だから、協力する必要などない。

 国に縛られない──それこそが、彼らにとって最高の自由に違いないからだ。

 だからこそ。

 あの政治家は、もう一つの仕事を準備したのだ。

「その仕事は、エンチェルクが受け持つから、リリュー兄さんはヤイクルーリルヒ様の護衛をお願い」

 実際。

 これだけの人間がいるにも関わらず、自分で自分を守れないのは、二人だけだ。

 政治家のヤイクと。

 赤ん坊の、ジロウ。

「母は、ジロウを抱えて戦う気か?」

 母の腕を心配しているわけではないが、赤子を守りながら戦うのはとても危険に思えた。

「うーん…それなんだけどね」

 モモは、微妙な表情を浮かべて。

「安全なところに預けて来るって…」

 歯切れの悪い、困惑した言葉が答えとして返された。

 母は。

 また、何か突飛なことをしようと思っているらしい。
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