アリスズc

「『爆弾』だな」

 伯母は、壁越しに一度ちらりと階段を見て呟く。

 それが何であるか、分かっているようだった。

 聞き慣れない言葉で、さっきの出来事を指す。

「要点だけ言う」

 悠長に説明してもらう時間は、確かにない。

「おそらく、火が根本までたどりつくと、本体が強く弾ける仕組みだ。火の線を切るか、距離を大きく取らないと危ないな」

 原理は分からないが、魔法ではないようだ。

 距離を保ちながら、相手を危険にさらす。

 こんなものを。

 異国の人間は持ち込み。

 こんなものを。

 ロジアやカラディは、おそれたのか。

「伯母さま…私、窓から出て飛び降りましょうか?」

 正面きって飛び出すには、余りに危険が高い。

 相手は三人。

 まともに向かえば、爆弾とやらでやられてしまいかねない。

 ぐるりと建物を迂回し、背後を取るのだ。

「飛び降りたところにも…いるぞ?」

 伯母の助言に、頷く。

 頭の悪い敵ではない。

 正攻法の奇襲、逃走経路を押さえること、そして切り札。

 基本は、全て押さえているはずだ。

「じゃあ…行ってこい」

 伯母は、微笑んだ。

 ああ。

 桃は、肩の力がすぅっと抜ける感覚を、思う存分味わった。

 いくつもの修羅場をくぐっても、伯母は修羅ではない。

 太陽の下の自分の道を、しっかりと歩く人の笑みは、これほどまでに心強いのか。

「いってきます」

 桃は──駆け出した。
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