アリスズc

 バルコニーの下の庭には、多くの人の気配。

 しかし。

 火は、見えなかった。

 爆弾持ちはいないようだ。

 桃は。

 こんなに高いところから飛び降りるのは、生まれて初めてだ。

 トーのことを、思い出す。

 彼が高いところから飛び降りる姿を、思い出そうとしたのだ。

 筋肉と関節の全てを緩衝材にして、着地をするイメージを作る。

 そして。

 すぐに刀を抜くのだ。

 息をひとつ吐いて。

 桃は──飛んだ。

 刹那の強い落下感に、意識を持って行かれないようにする。

 すぐに。

 本当にすぐに、地面が来る。

 足の裏が、足首が、膝が腰が。

 それらを極限まで曲げ、それでも耐えきれないことに気づき、桃は受け身のように地面に転がった。

 二回転して飛び起き、同時に刀を引き抜く。

 いくつもの剣が。

 彼女に向け、振り出されている。

 足!

 桃は、強く地面を踏みしめた。

 どこも痛めていない。

 よし!

 強く蹴る。

 刃の下をかいくぐり──低い位置から斬り上げる。

 血の雨ばかりは。

 避けきれなかった。
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