アリスズc

 二日目。

 テルは、順当に隣領へとたどり着いた。

 領主に一言挨拶をして通過するつもりだったのだが、そこには先客がいた。

 オリフレアだ。

 父の従妹である彼女もまた、一週間もしないうちに旅立つはずである。

 一度都に入って、それからの出発になるため、準備期間の今、こんなところでテルを冷やかしている場合ではないというのに。

「ふぅん」

 獣の目を隠すこともせず、オリフレアは彼と彼の従者たちを見た。

 冷やかしというよりは、敵情視察というところか。

「これはこれは、日向花の君」

 そんな少女に、一瞬もひるむことのない男がいた。

 ヤイクだ。

 彼女の母の二つ名で、恭しく語りかける。

 瞬間、オリフレアの眉が跳ね上がった。

「その名で呼ぶのは許さないわ!」

 瞳に輝いているのは、明らかなる怒り。

「今や、名をお継ぎになってもよろしいのではありませんか?」

 しかし、ヤイクはそんな怒りなど右から左。

 都で、政敵だらけでも平然としている男にとって、オリフレアの野性的な怒りなど、風のようなものなのか。

「あんな女」

 ヤイクは、間違いなくオリフレアの尾を踏みつけたのだ。

 刃のようにギラギラと輝いていく目を、彼女は決して隠さない。

「あんな女…死んでせいせいしたわ!」

 自分の母親──しかも、イデアメリトスの髪を残した女性を指して、オリフレアは容赦なく吠えた。

 父の叔母は、髪を切らねばならなかった。

 ソレイクル16。

 それが、彼女の肩書。

 16とついたからには、16代目のイデアメリトスが髪を切る時に、それに殉じなければならない。

 テルの祖父と共に、彼女は髪を切った。

 祖父は生きた。

 彼女は──そうではなかった。
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