アリスズc

「はじめまして、次郎」

 エンチェルクが居候している武の賢者宅に、赤子を祝福する客が現れた。

 一番最初の客は──ウメ。

 伯母である彼女は、たくさんのおむつと、御守袋なるものをこしらえてきていた。

 ウメらしい気遣いと、愛にあふれた贈り物だ。

 懐かしげに、赤ん坊を抱く。

 きっと、モモを産んだ時のことを思い出しているのだろう。

 彼女の後ろから、二番目の客であるコーが現れる。

「次郎、とっても可愛い」

 小さなヒナ鳥を慈しむように、彼女は赤ん坊を覗きこむ。

 にこにことしていたコーの目が、ふっと、近くのロジアに向けられる。

 その細い首が、斜めに傾いた。

 何かを考えるように。

 とことこと、ロジアの前に立つ。

「身の内の毒を…抜きませんか?」

 その瞬間の。

 ロジアの顔は、はっきり見えた。

 青ざめるでは追いつかないほど、彼女の血の気は引き、恐ろしい生き物を見る目になったのだ。

「何の話かしら?」

 震える唇でコーを拒絶し、ロジアは部屋を出て行った。

 ジロウがいるにも関わらず出て行くということは、よほどの衝撃だったのだろう。

「どうしたの? コー」

 そのやり取りを見ていたウメが、問いかける。

 それに、コーが困ったような眉になった。

「身体の中に、昔の毒が沈殿してます。抜かないと、きっとあの人は死ぬまで苦しい思いをするでしょう」

 昔の、毒。

 この国で、普通の人間が毒に接することはほとんどないだろう。

 ということは、もっと昔。

 ロジアが、この国に来る前の話か。

 かの国は──子どもを一体どんな環境に置いておいたというのか。
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