アリスズc

 三番目のお客は──太陽妃だった。

 ジリアンを伴って、若々しい緑の苗木の贈り物を抱いてくる。

「道場の近くに植えよう」

 キクは、そう言って微笑んだ。

 この屋敷の庭に、植える気はないようだ。

 ここは、借り物の官舎に過ぎない。

 いつか出て行くところだと分かっているから、太陽妃もこうして苗木のまま抱えてきたのだろう。

 そこへ、ようやくロジアが帰ってくる。

 コーを避けるように、ジロウの側へと戻るのだ。

 どれほど居心地が悪くとも、そこにいなければならないように。

「こんにちは、ロジアさん。景子と申します」

 太陽妃は、初対面の彼女に挨拶を向ける。

 不在の間に、紹介を受けていたのだ。

「ロジアですわ…どうぞよしなに」

 彼女は、相手が誰か分かっていないような挨拶をする。

 この国では奇妙な、短い名前同士の会話。

 しばらくして。

 ロジアは、幾度か怪訝な表情をした後に、扇を広げてキクに何かを耳打ちした。

「ああ、そうだね」

 大らかに頷かれ、ロジアは呆れた表情をした。

 その呆れ顔を、何とか押し込めながら、まじまじと太陽妃を見つめる。

 まるで。

 珍獣を見る目、だった。

 この大きな国を統べる者の奥方だと、ようやく理解したのだろう。

 飾り立てられた伝説の人には、とても見えないと言ったところか。

「景子、ハレイルーシュリクスは元気ですか? 今度また、遊びに行きますね」

「元気よ。きっとあなたに会いたがっているわ、遊びに来てあげて」

 そんな彼女に。

 コーが、楽しげにさえずる姿は、それはもう異質極まりなく映ったに違いない。

 扇で隠した口元の向こうで、何とも言えないため息が漏らされる音を、エンチェルクは聞いてしまったのだった。
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