アリスズc

「まだって…何が早いのかな?」

 ハレは、引かなかった。

 何をもって、早い遅いを言っているのだろうか。

 彼女は、既にいつ結婚してもおかしくない姿をしている。

「まだ…コーは、本当に理解はしていない」

「もう、コーはちゃんと社会の事は分かり始めているよ」

 彼女は、沢山の知識を得ている。

 その心には、ハレへの気持ちも生まれていると思っていた。

 トーが娘かわいさで心配なのは分かるが、いつかは来る日なのだ。

 そしてハレも、いつかは突破しなければならない相手でもあった。

 そのいつかが、今日でもいいではないか。

「急ぐ必要は、何もない」

 壁は、強固だった。

 自分たちが、制約なく長く生きられる事を、トーは知っている。

 それは、勿論コーにも適用される。

 普通の人よりも長い一生を、ゆっくりゆっくり使っても、何ら問題がないと思っているのか。

 問題があるのは、ハレだ。

「私の一生は、普通の人とそう大きな差はないよ」

 老いるのは遅いが、テルの賢者が全員死ねば、ハレも髪を切らねばならないからである。

「では…」

 トーは、まっすぐに自分を見る。

「では…言うべき言葉を、コーに言うといい」

 言葉の内にまぎれたものを察せよというのではなく、唇に音として出せと彼は言うのだ。

 言葉は、彼らにとっては大事なもの。

 それを、コーに伝えてみろと。

 いつかは、来る日だと思ったではないか。

 ハレは、彼女の方へと向き直る。

「コー…」

 息を、整える。

「コー…私と結婚してくれないか?」

 イデアメリトスを。

 離れる覚悟なら、とうに出来ていた。
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