アリスズc

 テルが部屋に帰ると、オリフレアが来ていた。

「珍しいな」

 ソファに身体を深く預ける彼女のおなかは、随分大きくなった。

 そろそろ生まれるのではないかと思うが、まだ先だという。

「大分、具合がよくなったわ」

 そのおなかの割に、オリフレアの体調は悪くないらしく、最近は軽い散歩も出来るようになったようだ。

「そうか、それは良かったな」

 彼女の隣に座り、軽く肩を抱く。

 ため息をひとつついて、彼女は身体を預けてくる。

「面白いことをしてるんですって?」

 自分のおなかを軽くなでながら、オリフレアは好奇心を覗かせる。

「どれの話だ?」

 テルは、探りを入れてみる。

 いま、彼の周りには様々な問題が山積している。

 彼女にとって面白い話とは、どのことか分からなかったのだ。

「異国人のことよ」

 ふふと、オリフレアが笑う。

 一番、厄介な問題を捕まえていたようだ。

 箝口令の元、内輪の議論から出すことはないというのに。

「どこまで耳に入っている?」

 テルは、自分から話すことはしなかった。

 ことは、かなり危険なまつりごとの話だ。

 オリフレアを信用しているとかいないではなく、迂闊に外で口に出すものではない。

「馬鹿ね。宮殿で牢獄につないでいるならまだしも、武の賢者の屋敷で半分自由にさせておいて、隠し切れるわけないじゃない」

 聞けば、武の賢者の子が産まれた事を聞いたシャンデルが、祝いを持っていった時に、話を仕入れてきたようだ。

 赤子の側に離れない、見知らぬ火傷の跡を持つ女性。

 シャンデルは、不自由ながらも既にオリフレアの側仕えとして復帰している。

 キクたちと縁のあった彼女だけに、話を聞いてくることが出来たのだ。

 女性たちの情報網も、侮りがたいものである。

「会いに行こうとは思うなよ…まだ、な。とりあえず、無事子を産んでくれ」

 テルの心配の種を、これ以上増やされてはたまらない。

「じゃあ、私を満足させるほどの話を聞かせてよ」

 好奇心旺盛な──困った妻だった。
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