アリスズc

 招かれざる客は、夜に来た。

「子が出来たと聞いてな」

 エンチェルクは、玄関先で大勢の人間を引き連れた男を見た。

 応対しているのは、この家の主人である武の賢者。

 一応、少ないながらに使用人のいる家であるにも関わらず、彼が出なければならない相手ということだ。

 見たことのある男だった。

 確か。

 天の──

「ああ、うるさいのが来た」

 階段のそばにいたエンチェルクの後ろから、キクが現れる。

 苦笑混じりに、しかし、真正直な言葉。

「久しぶりだな…リサー」

 キクは、ぽんとエンチェルクの肩を叩いて、玄関の方へと進み出る。

 恐ろしい呼び方をしながら。

 確か彼は。

「相変わらず、不作法で無礼な奥方だな」

 天の賢者。

 彼は武の賢者を見上げながら、痛烈な皮肉を投げつける。

「こんな平民の家にまで、賢者殿が祝いの品を届けてくれるとはありがたいことだな」

 この家の奥方には、さして効いている様子もないが。

 何より、キクの夫もまた賢者であるというのに、あっさりと「平民」と言い切れるのも大したものだ。

「我が跡取りの時に、祝いの品が届けられていたからな。さて、子を見せてもらおうか」

 天の賢者の、話の流れは強引で。

 こんな夜に、急いで祝いに駆けつけるほどの仲であるとは思えない。

 非常に、違和感のある事態に感じた。

 その違和感は。

「賢者殿がみたいものは、私の子ではないだろう?」

 キクによって、ばっさり斬り捨てられる。

 はっと、エンチェルクは身を固くした。

 そうか、と。

「分かっているのならば、素直に通してもらいたいものだな」

 そうか。

 天の賢者が見たいのは──異国人のロジア。
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