アリスズc

 方向が、一緒だった。

 ヤイクも、ウメのところに行く予定だったのだろう。

 町を抜けると、人も少なくなる。

 もっと行くと内畑になるので、さらに人が少ない。

 エンチェルクは、ただその背を見ながら歩いた。

 彼は、ふと足を止めた。

 追い抜くことも出来ず、足を止める。

「………」

 黙ったまま、周囲の畑を眺めるように、ヤイクは立っている。

 何かを見ようとしているのか、それとも考えようとしているのか。

 分からないエンチェルクも、黙って立ったまま。

 だが。

 その時間が、刻々と流れてゆくのは、とても違和感があった。

 長い、長い時間、黙ったまま。

 さっき。

 彼女に言葉を向けたことも珍しいことだが、いまもまたそうだった。

 さすがに、長すぎる。

 エンチェルクは、表情を曇らせた。

 その沈黙と停止に、何か意図があるように思えたのだ。

 何かを彼女に見せようとしているのか、それとも、何かを彼女にさせようとしているのか。

 周囲を見るも、いつもと同じ平和な内畑だ。

 太陽妃が手掛けた、新しい野菜もあるようだが、詳しいことはエンチェルクには分からない。

 分からないということは、勉強不足ということだ。

 それを、ヤイクは自分に思い知らせたいのだろうか。

 いや。

 もっと、何か。

 エンチェルクは。

 自分の心臓に強い高鳴りを感じた。

 分からないというのならば。

 聞けば。

 聞けば、いいのだ。

 それは、とてもとても強い心がいるもの。

 だが。

 今日、ヤイクは自分に声をかけた。

 それが、彼女の唇を震わせる。

「何か…面白いものでもありますか?」

 微かに、声が上ずってしまった。
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