アリスズc

「あら…」

 二人が歩いてくる姿を見たウメは、少し意外そうに、そして少し嬉しそうに笑いかけた。

「やあ、ウメ」

「楽しい話のようね…そんな顔をしているわ」

 自然に交わされる言葉。

 壁も溝も、そして身分の差も、そこにはあるようには感じない。

 お互いを尊重する、薄い布だけが間に流れる関係に見えた。

「楽しい? そうかもしれないな…召集令状だよ、ウメ」

 懐から取り出される書状は、2通。

「あら、まあ」

 それを見て、ウメは目を大きく見開いて笑った。

「ありがたく、頂戴致します」

 低く腰を屈め、両手で捧げ持つようにして、うやうやしく書状を受け取る。

「どちらの殿下の書状から、お読みすればよろしいかしら?」

 テルとハレ。

 だから2通あったのか。

「片方は、すこぶる短く、もう片方はすこぶる長い手紙だよ」

 的確なヤイクの言葉に微笑んだ後、ウメが視線でエンチェルクを呼んだ。

 側に近付くと。

「持っていてくれるかしら?」

 渡されたのは、ハレの書状だった。

 なるほど。

 ウメは、短い方から読むつもりらしい。

 大事に、書状を預かる。

 テルの書状を、たおやかな指先で開くや、ふふふと微笑んだ。

「どなたに似られたのかしら、あの方は」

 ウメの愉快そうな問いに。

「間違いなく夕日様ですな…」

 ヤイクは、誇らしそうに見えた。

 エンチェルクに見せるように渡されるテルの書状には、一言こう書いてあった。

『手伝ってくれ』

『手伝え』ではなく、『くれ』がついているところで、ウメへのお願いを表しているのだろうか。

 一体、何を。

 その理由は、おそらく。

 ハレの方の書状にあるのだろう。
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