アリスズc

 ハレの書状は外で読むには長いようだったので、ウメを家の中に入れ、座らせた。

 ヤイクは、もう用事は済んだとばかりに帰ってしまったが。

 エンチェルクは、彼の不在にほっとしながらも、心のどこかに隙間も覚えていた。

「忙しくなるわね」

 学問の町を作る。

 書状には、それが詳細に書かれていた。

 出来うる限り、国庫の負担を少ない形で。

 そのためには、民間から出資者を募るのが一番だ。

 ウメが、これまで育ててきた飛脚問屋のパイプが生きてくる。

 法整備に尽力をするのは、ヤイク。

 協力者は、太陽妃。

 以前、ウメが飛脚の制度を構築した時より、もっと大がかりな規模の計画が、ハレの書状には書かれていた。

 その文字の流れを、彼女は愛おしそうに眺める。

 ウメが、祝福を与えた太陽妃の息子。

 我が子のように、思っているのだろう。

 そんな、穏やかな時間は、簡単に壊される。

「たびたび、邪魔するよ」

 帰ったはずのヤイクが、再びやってきたのだ。

 エンチェルクの心臓は、大きく飛び跳ねた。

 一体、何の用があるというのか。

「ここを訪ねてきた人間に、ばったり出会ってね」

 何だろう。

 ヤイクの言葉に、微かに棘を感じる。

 エンチェルクに声をかけてきた男に対する皮肉ったらしい言葉ではなく、純粋な棘。

 余り、好ましい相手ではないのだろうか。

 そんな相手を、何故彼はわざわざ案内してきたのだろう。

 まさか、天の賢者では。

 自分の思いついた事に、はっとする。

 緊張の面持ちで、訪ねてきた人間とやらが現れるのを待つ。

 彼女の予想は──間違いだった。
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