アリスズc

 このイーザスという男が、彼女に強い恋慕の情を抱いているのは、リリューから見てもはっきりと分かった。

 彼の情が強すぎるのは、テテラも分かっているのだろう。

 だが、それは自分のためにも、イーザスのためにもならないと、考えているように見えた。

 だから、彼女は愛を受け入れないし、都へ向かう決意をしたのだろう。

「リリューにいさん、あの男も都へ行くって言ったらどうする?」

 従姉の問いは、彼に良い案を浮かばせた。

「来たければ、来ればいい」

 ああ、そうか、と。

 イーザスは、本当の意味で彼女を見ていない。
 
 盲目的な、信仰の対象のように思えた。

 だから、あの男はテテラと旅をすべきだと思ったのだ。

 行き先は、都でなくてもいい。

 彼女と生活し、苦楽を共にして初めて分かるものもある。

 それを、リリューもハレとの旅で知った。

 ただがむしゃらに、守るだけが愛ではないのだから。

 愛、か。

 彼も、時折ため息をつきたくなる時がある。

 生活のふとした隙間に。

 共に生活したことも、苦楽を分かち合ったこともない女性のことが、他のものにまぎれながらも、心の中に確かに貼り付けられている。

 本当は。

 リリューこそが、その人と旅をすべきなのだ。

 父と母が、そうだったように。

 太陽と太陽妃が、そうだったように。

 相手の本質を知るには、それが一番分かりやすいだろう。

 だが、旅に連れ出すには、彼女の同意が必要だ。

 何のあてもない旅に、連れ出す理由もない。

 何の決意もなく、会いにいったところで、彼女に門前払いをされるだけだろう。

 そういう意味では。

 歪んでいながらもがむしゃらに突進してくるイーザスを、少しうらやましくも思うのだ。

 ふう。

 この世は──惑うことが多すぎる。
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