アリスズc

「テテラフーイースルは、俺が背負う」

 殺意みなぎる言葉で──それは、お願いではなく命令だった。

 リリューと睨みあうその図は、桃の背筋をひやりとさせる。

 従兄が穏やかな性質でなければ、もうこの瞬間には、血を見る騒ぎになっていただろう。

 リリューは、テテラの方を見た。

 彼の意見でいいのかと、確認をする瞳。

 少し困ったように、彼女は微笑んで頷いた。

「一緒に、行きましょうか」

 心配していたことが、現実となった。

 そして、ありえない旅の一団が出来上がることとなったのだ。

 異国の危険な男に、港町の片足の女。

 日本人とこの国の人間の混血に、武の賢者と日本人の養い子。

 空には尾長鷲のオス。

 地上には、山追の子。

 この状況が出来上がったのは、奇跡というよりも、強引かつ無茶の集大成というか。

 とりあえず、テテラを彼が背負ってくれたのだけは、助かることだった。

 少なくとも、彼女をしょいこに乗せたまま、奇襲をしかけてくるような無茶だけはしないだろうから。

 リリューも身体が空くために、とっさの反応もしやすくなるだろう。

 要するに。

 桃は、イーザスをまったく信用していなかった。

 出来るはずもない。

 この男に、したたか痛い目をみせられていたのだから。

 ただ。

 テテラを思う気持ちだけは、嫌なくらい伝わってくる。

 痛いほどではなく、嫌なくらい。

 彼の思いは、周囲の人間にしてみれば、猛烈にはた迷惑だ。

 彼女以外は、全部殺したとしても、これっぽっちの良心も疼かないだろう。

「イーザス…速すぎるわ」

 二人を置いて、物凄い速度で進もうする彼を、テテラが止める。

 しぶしぶ。

 ようやく、危険人物は歩速を緩めた。

「早く来い」

 振り返った抉るような瞳には、ひとかけらの好意も含まれてはいない。

 うまくやれるかなあ。

 限りなく──無理に思えた。
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