アリスズc

「ユッカスってどんな人ですか?」

 イーザスという男に、祖国に対する愛国心なんかあるとは思えなかった。

 テテラ以外を心酔して行動することも、ありえないだろう。

 そんな男を、動かしている誰かがいるということだ。

 ラベオリ、ユッカス、ヘリア。

 そうなると、まだ出てきていない三人の異国人が、桃にはひっかかるのだ。

 その中でも、特にユッカス。

 カラディによれば、桃が顔に傷をつけたのが、この男。

 夜、炎を囲む中、彼女の出した話題は、テテラに向けられる。

 勿論。

 イーザスも、桃を撲殺せんばかりの視線で睨んだ。

 その名前など、聞きたくもないように。

「ユッカス…」

 テテラの表情が、思い出すように夜空に向けられる。

「頭のいい子だったわ…立ち居振る舞いも、一人だけ少し違っていて。いいところの子どもだったんでしょうね」

 別れてから、一度も会ってないと彼女は言う。

 いいところの子。

 それは、他の人間とは立場が違うということか。

 彼らを祖国にしばりつける、中心人物ではないかと思った。

 イーザスやカラディを恐れさせるほど。

 桃は。

 心の中で、彼女を八つ裂きにしているだろう男の方へと、向き直った。

 昔の、ではなく、限りなく今に近いユッカスを知る男へと。

「多分…私は、ユッカスの顔に傷をつけたわ」

 そう語りかけると、イーザスは目を吊り上げるようにして笑った。

「ああ、そうか。そりゃあよかったな」

 全身を震わせ、地の底から笑い声を搾り出す。

「傷のお礼に、地の果てまで、お前を追ってくるだろうよ」

 正々堂々、戦ってもらえると思うなよ。

 言葉にされない刃が、楽しげに桃の周囲に突き立ってゆく。

 やはり。

 そういう男なのか。
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