アリスズc

「イーザス…あなたたちは何をしているの?」

 テテラの言葉は、いつか出てしかるべきものだった。

 少なくとも、今まで何も聞かれなかった方がおかしいのだ。

 ロジアの屋敷が焼け、桃はユッカスと対立した関係になった。

 彼女が手塩にかけた子供たちが、騒動の根元にあることくらいは、分かってきているだろう。

「………」

 イーザスは、黙った。

 事情を説明するには、まず自分の本当の血の話からしなければならない。

 それは、出来ないと思っているのだ。

 何故なら。

 祖国の兵士たちが、港町を焼き、テテラの足を片方奪ったのだから。

 そんなことを、彼女を愛するイーザスが言えるはずがない。

 他の場所で聞かれたならば、どうとでもごまかせることだが、ここには桃もリリューもいる。

 事情を知っている人間のいる前で、下手な嘘もつけないだろう。

 だが。

 逆に彼は、二人がいることを利用した。

「こいつらの前では話せない」

 なるほど、うまい逃げ方だ。

「何もかも…知っている人たちの前で話せないことなんかないでしょう?」

 だが、テテラの方が上手だった。

 悲しげな表情を浮かべながら、桃たちの方を見る。

 ついでにイーザスに、心の底からの呪いの視線もいただけた。

 よくない展開だった。

 彼は、追い詰められていく。

 誰あろうテテラに。

 これまで、イーザスが出来ない我慢をしていたのは、一重に彼女のためのみだ。

 その本人から追い詰められては、どこにも逃げ場がなくなってしまう。

「テテラフーイースル…その話をするなら」

 血走った目を、彼女に向ける。

 桃は、反射的に身構えた。

 危険なことが起きたら、いつでも抜けるように。

 それほど、イーザスの声は切羽詰まったものだったのだ。

「その話をするなら…」

 強く何かを押し殺すように、ぶるぶると震えるその身。

「最初に…俺の足を切ってくれ」

 イーザスは、強烈な精神のせめぎあいに耐えかねてか──泡を吹いて倒れた。
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