アリスズc

 違和感と悪意に目が覚める──真夜中。

 野営中、テルが飛び起きた時、既にビッテは剣を抜いていたのだ。

 エンチェルクは、刀こそ抜いていないが、テルを瞳で気遣っている。

 大丈夫だと、彼女に視線を返す。

 ヤイクは、一部目を覚ましたが、うるさそうに半身を起こすだけだった。

 ビッテやエンチェルクを信用しているというより、適材適所を貫いているといったところか。

 肝の据わり方だけは、たいしたものだ。

 そうだな。

 テルも、ヤイクに倣うことにした。

 まだ、旅は始まって間もない。

 ビッテがいるのに、エンチェルクがでしゃばるのは、彼に対して失礼だし、自分が出るのは尚更彼の立場がないだろう。

 信用することも、大事なのだ。

 違う方向を向いている彼らを、自分の方に向かすためには。

 だからテルは、ただ瞳を彼の剣士に向けるだけだった。

 ざわつく声も隠せない、まとまりのない夜盗だ。

 これくらい、軽く乗り越えてもらわなければならない。

「……!」

 ビッテは――力強く、そして鮮やかだった。

 息継ぎの音を、まるでうなり声のように響かせながら、剣を振り回す。

 そう、振り回すのだ。

 そこに、無駄がないわけではない。

 たが、無駄を補って有り余る速さと強さと、それをすべて支え、吸収できる強靭な足腰を持っているのだ。

 ずしんと、地面を踏みしめたかと思うと、ぶった斬っている。

 切れ味なら、到底日本刀に及ばないこの国の剣で、だ。

 圧倒的な力で、引き裂いているのである。

 エンチェルクもテルも、ただ彼の豪腕を見ていた。

 頼もしいことだ。

 テルの安眠は――それほど長い時間、邪魔されることはなかった。
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