アリスズc

 エインは、背負われているテテラを見て、そして足が一本足りないことに気づいたのか、気まずそうに目をそらした。

 そらした先には、イーザスの危険な色をはらむ目があって、余計に困惑したようだ。

 シェローは、荷馬車に乗って行ってしまい、彼らは一人加えて再び都を目指すこととなった。

 桃が、何の話をしたらいいのか、考えあぐねている時。

「モモさんと、よく似てらっしゃるのね…」

 先に口を開いたのは、テテラだった。

「はい。血縁です」

 エインは、迷うことなく返事をする。

 だが、その言葉は非常に曖昧な表現だった。

 血縁。

 姉とは、呼んではくれないようだ。

 しょんぼり。

 やはり彼からすると、桃の存在はその程度にしか言葉に出来ないのだろう。

 いくら父が、自分の娘だとどこで誰にでも名乗っていいと言ったとしても。

「あら…じゃあモモさんは、貴族の娘さんになるのかしら?」

 テテラは、非常に素朴に、そして痛い一撃を言ってくれた。

 エインの髪の長さから、貴族の血筋という推測を。

 そんな彼の血縁ということは、桃もそうかと推測されたのだ。

 すばらしきかな、寺子屋制度。

 理論だてた思考が、しっかりと身についていらっしゃる。

「あ、いえ…私は…遠くの遠くの…」

 桃が、慌ててごまかそうとした瞬間。

「モモは、テイタッドレック家の一人娘ですよ」

 よどみなく。

 エインが、しゃべってしまった。

「テイタッドレック家の跡取りはあなたでしょ!」

 驚きの余り、声が裏返る。

「そう、私はあの家の跡取りだ。しかし、モモは父上の一人娘だ」

 それだけは譲れないとばかりに、彼は頑固に言い連ねた。

 反射的に、エインと睨みあう形になってしまった。

 くすくすと笑ったのは──テテラ。

「仲がいいのね」

 そう、見えますか?

 意思の疎通も出来ていないし、うちとけてもいない。

 どうやったら、世間の姉弟のような仲良しになれるのか、いまの桃にはまったく想像も出来なかった。
< 453 / 580 >

この作品をシェア

pagetop