アリスズc

 リリューの客。

 エインがそう言った時、彼は一体誰のことを指しているか分からなかった。

 だが、一言二言、その人物の特徴が挙げられただけで、すぐに思い当たったのだ。

『彼女』が、来たのだと。

 イエンタラスー夫人の屋敷で働く、あの女性。

 北の寒い町から来た彼女は、二度と故郷に戻りたくないと、屋敷の仕事に固執していた。

 その大事な仕事を離れて、都に来たというのだ。

 何故?

 しかも、リリューの客と言った。

 彼を訪ねて来たのだと。

 何故?

 決して、気軽に来られる距離ではない。

 彼女の出身を考えれば、リリュー以外の知り合いも都にはいない。

 何か、強い決意をしたのか。

 自分に会わなければならないのだと。

 もうすぐ、彼女の待つ都へ帰りつく。

 両親の屋敷で、待っているという。

 そこで。

 話をするのだ。

 彼女と。

 何を?

 彼は、首を傾けた。

 自分は、何の話をするというのか。

 そして、彼女はその後どうするというのか。

 思考は、深く深くリリューの奥へと潜航してゆく。

 エインを扱いあぐねている桃が近付いてきて、そんな彼にひとつ小さな愚痴をこぼした。

「姉弟って…何だろう」

 従妹もまた──悩みが尽きないようだ。
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