アリスズc

 二人の帰都は、歓迎すべきものだった──はずなのだが。

 エンチェルクは、屋敷の前に並んだ人々を見て顔を顰めた。

 リリューと桃とエインまでは、彼女の考えに入っていたが、ありえない二人がそこに混ざっていたのだ。

 しかも。

 その内の一人は、間違いなく異国の人間。

 桃に鉄拳を打ち込んだ、狂気的な目の男。

 何故!?

 視線を、桃に向けるしか出来ない。

 何故、彼をここまで連れてきたのか。

 このキクの屋敷には、ロジアがいるのだ。

 港町で、死んだはずの彼女が。

 そんなところへ、異国人の男を連れてくるなんて、生きていると吹聴してくれと言わんばかりではないか。

「おかえりなさい」

 慎重に、エンチェルクは言葉を吐きだした。

 多くの意味を込めて。

「ただいま帰りました」

 桃も、視線の意味はよく分かっているのだろう。

「私は、挨拶に寄っただけです。このまま家に帰ります…彼女と一緒に」

 背負われている女性を、見上げて言葉を付け足す。

 背負っているのが、あの男だ。

 要するに。

 背負っている男ごと、連れて行くというのだろう。

 こんな危ない男を、ウメの側に連れて行くというのか。

 男の目は、病んでいるかのようにギラギラして、すぐに暴れ出しそうに見えた。

 いくら、この屋敷から引き離すためとは言え、非常に危険に思えた。

 出来れば、エンチェルクがついていたかった。

 しかし、いまの彼女の仕事は、ロジアについていること。

 そんなわがままは、ウメも、そしてヤイクも許さないだろう。

「リリュールーセンタス…キクはいま道場です。挨拶をしにいくついでに、モモを送ってあげなさい」

 いまエンチェルクに出来る、精いっぱいの言葉がそれだった。

「分かりました」

 ちらと一度だけ屋敷を見た後、リリューは彼らに同行して屋敷の前を去って行く。

 ふぅ。

 急いで──ヤイクに知らせなければならないことが出来てしまった。
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