アリスズc

 都。

 いよいよ、イーザスのことを先送り出来ないところまで来てしまった。

 エンチェルクに、予想通りの反応をされた後、桃は家路につく。

 少なくとも、彼を伯母の家に置くことだけは、避けなければならないと思ったのだ。

 幸い、心配したエンチェルクが、従兄をつけてくれた。

 本当に、心強い。

 家に向かう道は、内畑の間にある。

 その道を、さまざまなことを考えながら歩いていると。

 突然、背の高い穀物の畑の中央めがけて、ソーが急降下してゆく。

「ソーさん!?」

 エサでも見つけたのだろうか。

 尾長鷲の今までにない動きに、桃が驚いていると。

 ひょこっと。

 その穀物畑から、白い頭が覗く。

「桃ーっ!」

 飛び出してくる、好奇心溢れる女性。

 コーだ。

 彼女につられるように、他の人も頭を上げた。

「桃さん、おかえりなさい!」

 丸い硝子を、鼻の上からずり落としそうにしながら声をかけてくれるあの人は──!!!

 た、太陽妃!

 ぞっと、した。

 一応、少し離れて護衛はついているはずだが、こうして見る彼女は、とても無防備に見えたのだ。

 イーザスであれば、片手でひねれるほど。

 そんな桃の心を知らないまま、コーがひらりはらりと飛ぶように走ってくる。

 その頭上を低く舞う、尾長鷲。

「おかえりー桃!」

 彼女は、全身で帰還を喜んでくれた。

 その大きなよく通る声は、きっと道場まで届いたことだろう。

 しかし、ハチはびくりともせず、ただ動きを止めたまま。

 そんなコーが、テテラとイーザスを見ながら、こう言った。

「新しい桃のお友達?」

 その屈託のない天真爛漫な声は、イーザスの呪いの視線を作り上げる。

「ええ、そうよ。よろしくね」

 テテラだけが、二人のまったく絡みあわない空気を解きほぐすことが出来たのだった。
< 456 / 580 >

この作品をシェア

pagetop