アリスズc

 コーの声のおかげか。

 道場の外には、ちょうど練習中だっただろう門下生と伯母が。

 家からは、母が出迎えてくれた。

「ただいま帰りました」

 晴れ晴れと、という気分ではないが、それでも久しぶりに会う母の姿を見ると安心する。

 門下生たちも、にこやかに迎えてくれるが、イーザスのただならぬ雰囲気にはさすがに気づいたらしく、腕の立つ度合いによって警戒感を消してはいなかった。

「イーザス…下ろして」

 しょいこに座るテテラがそう願うと、すぐに彼女は杖で降り立った。

 多くの人々を前に、彼女は柔らかく微笑む。

「こんにちは、太陽の都の方々」

 テテラは、眩しそうに目を細めた。

「こんにちは、海の方」

 伯母は、分かったのだろう。

 穏やかに、目を細めて返す。

 それまで、門下生たちは彼女の足を見たり、見ないようにしたりしていた。

 どうしたらいいのか、分からないでいたのだ。

「足は、どうされました?」

 その空気を知っているように、伯母が微笑みながらずばっと切りこむ。

 空気が、固まるかと思った。

「太陽の御許へ参りました」

 だが、相手はテテラだった。

 眩しく空を照らす光を、ちらとだけ見上げて答える。

「ここは、太陽に近い場所でしょうから、どこかに私の足も来ているかもしれません」

 そして、おかしそうに笑うのだ。

 もっとおかしそうに笑ったのは──叔母だった。

「それは、素晴らしい考えだ。ゆっくりと、都で足を探して行かれるといい」

 何と、あっけらかんと笑うのか。

「是非、ゆっくりしていらっしゃって」

 母まで、微笑んでいる。

 この姉妹は、一体何を考えているのか。

 若輩者の桃には、到底その思考には追いつけなかった。

 だが、そのおかげで。

 門下生たちは、彼女の足について触れてはならないものではないことを知って、みな穏やかな表情に戻る。

 空気は冷えることも固まることもなく、ただイーザスだけを置き去りにした。
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