アリスズc

 道場の前で、宴会となった。

 桃とリリューの無事と帰還と、新しい客人を向かえる祝いだ。

 門下生は、ひとっぱしり市場まで買い物に走り、作業中の太陽妃も呼び、すぐさま宴会は形となった。

 だが、気づいた時には──イーザスは消えていた。

 こんな集まりに付き合う気もないだろうし、とりあえずテテラが住む場所は確認したことで、離れても大丈夫だと思ったのだろう。

 桃は、少しほっとした。

 これで、機会をみて彼女をロジアに会わせることが出来る、と。

 エインも、こんな集まりは初めてなのだろう。

 戸惑っているように見えた。

 太陽妃を紹介された後は尚更だ。

 みな、すぐ側で楽しそうに歌いたわむれる姿は、いくら父から教育を受けた彼であっても、すぐさま飲み込めないに違いない。

 そんな中、エインは。

 母を、見た。

 都に来てから、直接会ってなかったのだろうか。

 何か、物言いたげな、けれどもうまく言葉に出来ないような、そんな瞳。

 そうか。

 エインは、知っているのだ。

 母の顔を。

 父が、送らせた肖像画で。

 イエンタラスー夫人宅で見た、あの絵を思い出す。

 父が、愛した女性。

 息子にとっては、複雑だろう。

 その視線が、ふっとこっちを向く。

 不意を突かれた桃は、まっすぐにエインと視線がぶつかってしまう。

「大丈夫?」

 彼女は、少し心配しているという雰囲気を絡めて、そう問いかけた。

 この空気に馴染みきれていない弟を、気遣っているという心を伝えようとしたのだ。

 しかし、それはエインを不機嫌にしたようだった。

「どうということはない」

 そう強がるのは──男の子に生まれた宿命なのだろうか。
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